「三体」のレビューをレビューする

読書メーターには共読という機能があって、自分が読んだ本に対する新しいレビューがタイムライン形式で見れるようになっている。根本的に読書メーターのレビューは255文字しか書けねえわブロックしたユーザーのレビューがそのまま流れてくるのでなんのためのブロックかわからないが、面白くはある。地雷を踏んでもいいように警戒防御を固めてから眺めてみるのは悪くない。ユーザースタイルシートを駆使して不可視にするのも無理ではないし。
当然ながら話題の本のレビューが洪水のように流れてくるのだが、ひとつ気になるシリーズへのレビューがある。

「三体」のレビューの潮流

細かい説明は省くが、「三体」シリーズは世界的に売れたSF小説シリーズであり、日本でもそこそこ売れている。全五巻。厚い。
どの本でも多かれ少なかれ賛否があるが、流れてくるレビューの総数が多いのでここに一種の傾向があることに気付いた。

  • めっちゃ面白い
    三体はSF小説の中でもかなり理屈をこねまわしているほうの作品なので、わりと肯定的なレビューの中に「難しかったけど面白かったです」「頭がついていってないけどスケールがゴイスー」「SF初めて読んだけど難しすぎでは?」*1という意見が大多数を占める。
    これを見ると実は、三体を面白いと評価している層は「それなりに本は読み慣れているけどSFに手を出していない人たち」だったりする。レビューからユーザーページに飛んでみるとSF本の登録がほとんどない場合が多い。*2
    SF的設定に戸惑いつつ読書の経験値は結構あるので頑張ってついていく。そうすると世界観の大きさやドラマの面白さに到達できる。ということだろう。これらの人たちは新しいジャンルを開拓できたかもしれない。

  • まあまあ面白い・普通
    中庸的あるいは1レビューのなかに賛否含める形で書く人が多い。そして、「普段SFを読んでいる層」が最も多いのはここに見える。私もここ。
    三体はよくスケール感の大きさを推されていて、実際その側面は強いがそれだけではない。SFに触れている人ほど、三体のスケールの大きさがそうでもないことには気付くだろう。SF小説、雑に宇宙とかぶっ壊しがちである。三体は宇宙の壊し方にすごく凝っているのは事実だが、宇宙がぶっ壊れるのはSF的にはそこまでレアではない。単に華文SFという物珍しさに釣られて読んだ人も多そうだ。
    あと、(個人の感想です)だが、SF小説読みは言うほど真面目にSFの仕組みを読んでいない。読みやすそうなところだけ真面目に読みがちである。なので、全五巻のボリューム自体はそこそこだとは思うが、読み始めるとあっさり終わってしまう。言ってしまえば適当に読むので、襲い来る怒涛のSFギミックに作者の思い通りに振り回される読者に比べて少し冷めている。一歩引いたところから展開を俯瞰したりキャラ造形の部分に集中するので、そこの好みが大きく反映されているというところか。

  • つまらない。わからん
    単純に面倒な設定の壁に阻まれてドラマ的な面白さに到達できなかった人か、逆にSF部分が超えられたけど別にドラマ部分が面白くなかった人か、SFの設定的な部分が気に入らない人のどれか。最後のパターンを除けば比較的短文化しがちである。これは三体に限らず、他の作品でも否定的なレビューは短文になる傾向がある。

スターウォーズなどのようなわかりやすいスペクタクルさを持ったSF小説ではないにもかかわらず、三体はある程度の知名度を獲得した。一般には浸透するほどではないが*3、本読みの中に存在するジャンルの仕切りをある程度飛び越えることに成功している。その結果がSF経験値を持つ人とそうでない人のレビューという形で可視化されて、少し面白い。

やる気のある人ならスクレイピングとかで統計できるかもしれない。やってどうするかと言われると、見て楽しむくらいしかなさそうなんだけど。「本をおすすめするAI」なんかを個人や小さめの団体で作るような応用には生かせるかもしれない。

 

余談

当たり前だが、「レビューは書こうと思わなければ書かない」ので、ある程度その傾向にバイアスがかかっている。「面白かった」の意見が5割、「つまらなかった」の意見が3割、「まあまあ」が2割ぐらいになる。中庸は圧縮されやすい。特に長いシリーズものはより肯定的な意見が強くなる。ただし、読書メーターはレビューのためにレビューを書く、つまり読んだ本全部にレビューを付ける人がそれなりにいるようなのでバランスが異なるかもしれない。

*1:(意訳)

*2:私は「ソラリス」「雪風」あたりの有名どころを読書記録しているので、他人のページにアクセスしてレビューされていた場合共読としてピックアップ表示されるのでそこでもわかりやすい。

*3:往々にして特定ジャンル内での「これめっちゃ流行ってるよ!」は世間一般には大して流行っていない。小学校の1クラスで流行った遊びがせいぜい同じ学年にしか波及しないようなものだ。